家族信託の手引き

信託中の自宅を売るとき 受託者が売主になる契約と信託登記の抹消

内容の確認日: 2026年11月4日

信託している自宅を売るときの売主は、受託者です。名義が受託者になっているからです。売買契約には受託者が署名し、代金は信託財産として受け取ります。信託登記は、所有権移転の登記と同時に抹消します。

先に確かめるのは、信託契約書です。読むところは3つです。受託者に売却する権限があるか、売るのに委託者や受益者の同意が要るか、売ったあとの受益者の住まいをどうするかです。受益者の居住用財産の3,000万円特別控除は、国税庁のタックスアンサーに信託の場合の記載を見つけられませんでした。この記事は一般的な情報です。個別の判断は司法書士、税理士、税務署などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月4日に確認しました。

売主は受託者 信託法の基本

戸建て住宅が並ぶ住宅地
写真: Peka / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

信託法第26条は、受託者が信託財産に属する財産の管理や処分をする権限を持つと定めています。ただし、信託行為(信託契約書など)でこの権限に制限を加えることもできます。家族信託で自宅を信託した場合、名義は委託者から受託者に移っています。そのため、売買契約書の売主欄には受託者が、信託財産の受託者として署名します。

委託者や受益者が親、受託者が子という家族信託は、よくある形です。親が自宅に住んでいても、親は売主になれません。名義人でないからです。親の住まいをどうするか、売却の同意を誰がするかは、契約を結ぶ前に家族で決めておきます。

受託者の義務は、家族信託の受託者がすることで詳しく説明しています。売却の場面に関係するものを挙げます。

  • 信託の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理する(信託法第29条)
  • 受益者のため忠実に信託事務を処理する(第30条)
  • 信託財産に属する財産を自分のものにするなどの利益相反行為の制限(第31条)

第31条第1号は、信託財産に属する財産を受託者の固有財産に帰属させる行為を、原則として制限しています。受託者である子が自宅を自分で買い取る場合などが、これに関わります。例外が認められる場合は法律と信託契約書に定めがあるので、身内に売る場合は特に、事前に専門家に確かめ、価格の根拠も残しておきます。

売る前に信託契約書で確かめること

店頭に並んだ印鑑
写真: Nesnad / CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

信託契約書を開いて、次の点を探します。

  • 信託財産の処分(売却)が、受託者の権限に含まれているか。「管理」だけで「処分」がないものもあります
  • 売却するとき、委託者や受益者の同意、または通知が要るか
  • 売却価格や買主について、条件があるか
  • 売却代金をどう扱うか(信託財産として管理するのか、受益者に渡すのか)
  • 自宅を売ったあと、信託が続くのか終わるのか

権限に足りない点があれば、信託の変更が要るかもしれません。信託法第149条第1項は、信託の変更は委託者、受託者、受益者の合意でできると定めています。同条第2項には、信託の目的に反しないことが明らかな場合に、受託者と受益者の合意でできるなどの定めもあります。どの手続きが使えるかは、信託契約の内容によります。司法書士や弁護士に契約書を見てもらってください。

受益者の判断能力が弱っている場合は、同意をだれが行うかも問題になります。この点は家族信託と成年後見・任意後見・遺言の違いを見てください。

信託登記の抹消と所有権移転の登記

津地方法務局鈴鹿支局の庁舎
写真: Suikotei / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

信託した不動産の登記簿には、受託者への所有権移転と、信託の登記が載っています。売却すると、その不動産は信託財産でなくなります。

不動産登記法は、2つの点を定めています。

  • 第104条第1項: 信託財産に属する不動産に関する権利が移転などで信託財産に属しないこととなった場合、信託の登記の抹消の申請は、その権利の移転の登記の申請と同時にしなければならない
  • 第104条第2項: 信託の登記の抹消は、受託者が単独で申請できる

つまり、受託者から買主への所有権移転の登記と、信託登記の抹消の申請は、同時に法務局へ出します。実際の申請は、売買の決済の日に司法書士が行うのが一般的です。買主が住宅ローンを使う場合は、抵当権の設定登記も同じ日に行われます。

登記簿の状態と売買契約書の内容がそろっているか、司法書士に決済の前に確かめてもらいます。

信託したときの登記の流れは家族信託の始め方に、費用は家族信託の費用の内訳にあります。

売却代金は信託財産になる

銀行のATMコーナー
写真: Rebirth10 / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

信託法第16条第1号は、信託財産に属する財産の管理や処分によって受託者が得た財産は、信託財産に属すると定めています。自宅を売って得た代金は、受託者個人のお金ではありません。信託財産です。

受託者は、信託財産を自分の財産と分けて管理します(信託法第34条)。金銭は、その計算を明らかにする方法で分けます。実務では、信託のための口座に入金します。売買代金の受け取り先は、決済の前に決めておきます。

受託者が毎年作る帳簿や報告書にも、売却による変化を反映します(信託法第37条)。委託者や受益者は、受託者に事務の状況の報告を求められます(第36条)。

売却代金をどう使うかは、信託契約書の定めによります。たとえば、親の施設の費用や生活費に充てる、別の住まいを買うといった使い方が考えられます。契約書に定めがなければ、売却の前に信託の目的に沿った使い方を家族で決め、必要なら契約を変更します。

3,000万円特別控除は国税庁で何が確認できたか

名古屋北税務署の庁舎
写真: 円周率3パーセント / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

自宅を売ったときの税金は、信託の場合、課税の対象になる人が気になるところです。

所得税法第13条第1項は、信託の受益者(受益者としての権利を現に有する者)は、信託財産に属する資産と負債を有するものとみなして、所得税法を適用すると定めています。信託財産に帰せられる収益や費用も、受益者のものとみなされます。受託者の名義で売っても、課税上は受益者の話になる、という書き方です。

居住用財産の3,000万円の特別控除については、国税庁のタックスアンサー No.3302(令和8年4月1日現在法令等)に次の要件があります。

  • 売った資産が、現に自分が住んでいる家屋、または以前に住んでいた家屋(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合)とその敷地などであること
  • 売った年の前年と前々年に、この特例などの適用を受けていないこと
  • 親子や夫婦など、特別の関係がある人に売ったものでないこと
  • 確定申告をすること

No.3302とNo.3314には、信託についての記載がありませんでした。「受益者が住んでいた信託中の自宅を受託者が売った場合に、この特例が使えるか」は、この二つのページからは判断できません。使えるかどうかは、信託契約の内容(誰が受益者か、売主欄の名義)と、売る相手との関係、居住の実態で変わる可能性があります。売買契約を結ぶ前に、税務署か税理士に確かめてください。

家族信託全体の税金は家族信託の税金と毎年の届出にまとめました。

出典

いずれも2026年11月4日に確認しました。

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