家族信託の手引き

家族信託の受託者がすること 分別管理・帳簿・年1回の報告と責任

内容の確認日: 2026年11月3日

家族信託の受託者になった人には、信託法が定める義務があります。中心は、信託財産を自分の財産と分けて管理すること、帳簿を作ること、毎年1回、受益者に財産の状況を報告することの3つです。いずれも信託法が定める義務です。ただし、注意の程度や報告の方法などは、信託契約で別に定められる部分があります。

義務に違反して信託財産に損失が出れば、受益者から損失のてん補を請求されることがあります。義務に違反したときの責任は、後半で説明します。この記事は一般的な情報です。個別の判断は司法書士や弁護士、税理士などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月3日に確認しました。

受託者の義務はまず4つ

信託法の29条から31条が、受託者の基本の義務を定めています。

机の上に開いたノートとペンと眼鏡
写真: Shixart1985 / CC BY 2.0(Wikimedia Commons)
  • 信託の本旨に従って信託事務を処理する(29条1項)
  • 善良な管理者の注意をもって処理する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定める注意でよい(29条2項)
  • 受益者のために忠実に処理する(30条)
  • 利益相反になる行為をしない(31条1項)

「信託の本旨」は、その信託を何のために作ったかという趣旨のことです。たとえば、親の生活費と介護費を出すための信託なら、その目的から外れた使い方はできません。親の財産を預かっているのではなく、受益者のために信託財産を管理する立場だと考えると、以下の義務がつかみやすくなります。

信託の始め方は家族信託の始め方で説明しています。

信託財産は自分の財産と分けて管理する

受託者は、信託財産と自分の財産(固有財産)を分けて管理しなければなりません(信託法34条1項)。財産の種類で分け方が違います。

世田谷信用金庫等々力支店の店舗
写真: Suikotei / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
財産分けて管理する方法
不動産など、信託の登記ができる財産信託の登記をする
登記ができない動産(金銭を除く)外から見て区別できる状態で保管する
金銭などその計算を明らかにする方法

金銭の「計算を明らかにする方法」として使われるのが、信託専用の口座です。親の預金を信託する場合に、受託者の個人口座へ移して生活費と混ぜると、この義務に反するおそれがあります。

分け方は信託行為で別に定められます。ただし、登記ができる財産の信託登記の義務は、契約で免除できません(34条2項)。

帳簿を作り、年1回報告し、求められたら見せる

受託者は、信託事務に関する計算と、信託財産・債務の状況を明らかにするため、帳簿その他の書類を作ります(信託法37条1項)。さらに、毎年1回、一定の時期に、貸借対照表、損益計算書などの書類を作り(同条2項)、その内容を受益者に報告します(同条3項)。報告の方法は、信託行為に別段の定めがあればそれに従います。

机の上のノートパソコンと手帳とペン
写真: www.Pixel.la Free Stock Photos / CC0(Wikimedia Commons)

書類の中身は法務省令の信託計算規則が定めています。この規則の4条からは、次のことが読み取れます。

  • 帳簿は、1つの書面にまとめる必要はない。ほかの目的で作った書類や電磁的記録を帳簿にしてもよい(2項)
  • 毎年の書類は「財産状況開示資料」で、信託財産と債務の概況を明らかにするものでなければならない(3項・4項)
  • 財産状況開示資料は、帳簿に基づいて作る(5項)

保存の期間も決まっています。帳簿は作成の日から10年間(信託の清算が結了すれば、その日まで)、毎年の書類は原則として信託の清算の結了の日までです(信託法37条4項・6項)。受益者に書類やその写しを渡したときの例外があるため、保存の細かい扱いは条文か専門家に確かめてください。

受益者や委託者の側からは、次の請求ができます。

  • 委託者または受益者は、受託者に信託事務の処理状況と財産の状況の報告を求められる(36条)
  • 受益者は、帳簿などの閲覧や謄写を、理由を明らかにして請求できる。受託者が断れるのは、38条2項が挙げる場合に限られる(38条1項・2項)

毎年の書類は、税務の届出にも関わります。受託者が出す計算書や調書は、家族信託の税金と毎年の届出で扱いました。

自分に有利になる取引はできない

信託法31条1項は、利益相反になる行為を禁じています。条文の1号は、信託財産に属する財産を自分の財産にすること、自分の財産を信託財産にすることです。たとえば、信託した実家を受託者自身が買い取る行為は、この条文に当たる可能性があります。

夕暮れの住宅地
写真: 亜細な日常 / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

例外もあります。31条2項は、たとえば次のようなときは行為ができるとしています。

  • 信託行為に、その行為をすることを許す定めがある
  • 受託者が重要な事実を開示して、受益者の承認を得た(ただし、この場合でも行為をしてはならないと信託行為に書いてあれば、できない)

31条2項には、このほかの例外も並んでいます。実家を子どもの1人が引き取りたいなど、利益相反になりそうな場面が想定できるなら、契約書を作る段階で専門家に相談し、許す定めを入れるかどうかを決めておく方法があります。

義務に違反したときの責任

受託者が任務を怠って信託財産に損失が出たときは、受益者は損失のてん補を請求できます。信託財産に変更が生じたときは、原状の回復を請求できます(信託法40条1項)。ただし原状回復は、著しく困難な場合などは請求できません。

東京簡易裁判所の庁舎の入口
写真: っ / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

義務の種類によって、責任の定め方が変わる点があります。

  • 忠実義務や利益相反の禁止に違反した場合、受託者やその関係者が得た利益と同額の損失が信託財産に生じたものと推定されます(40条3項)
  • 分別管理に違反して損失が出た場合、きちんと分けていても同じ損失が生じたと受託者が証明できなければ、責任を免れません(40条4項)
  • 信託事務を第三者に任せられる場合は限られ(28条)、違反して任せて損失が出たときも、同じように受託者が証明する立場に立ちます(40条2項)

受託者の義務の負担が重いと感じたときは、契約書で書類の様式や報告の方法を決めておく、帳簿づけを専門家に任せる、といった備えを検討します。どこまで任せられるかは、28条の条件と契約の定めで決まります。

出典

いずれも2026年11月3日に確認しました。

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