家族信託の税金と毎年の届出 贈与税がかからない形と計算書・調書
親が委託者と受益者を兼ねる形なら、家族信託を始めても贈与税はかかりません。税法は、信託財産を受益者が持っているものとみなすからです。名義が子に移っても、税金の上では親の財産のままです。受益者が親から別の人に変わると、新しい受益者が贈与や遺贈で取得したものとみなされます。
信託が始まると、受託者には税務署への届出が生じます。収益が一定額を超えれば、毎年1月31日までに信託の計算書を出します。信託した不動産から出た赤字は、ほかの所得と差し引きできません。この記事は一般的な情報です。個別の判断は司法書士や弁護士、税理士などの専門家にご相談ください。内容は2026年11月3日に確認しました。
委託者と受益者が同じなら贈与税はかからない
所得税法13条1項は、信託の受益者が信託財産に属する資産と負債を持っているものとみなすと定めています。信託財産から生じる収益と費用も、受益者のものとみなします。

贈与税の側では、相続税法9条の2第1項が基本の規定です。信託の効力が生じた時に、適正な対価を負担せずに受益者等となる者がいれば、その人は委託者から贈与で信託に関する権利を取得したものとみなされます。委託者の死亡によって効力が生じた場合は遺贈とみなされます。
親が自分を受益者にする形では、受益者になるのは委託者本人です。ほかの人が対価なしに受益者になるわけではないので、この規定で贈与税がかかる場面に当たりません。受託者である子は財産の名義を持ちますが、受益者等ではないので、この規定で贈与税がかかることもありません。
反対に、最初から子や孫を受益者にすると、信託の効力が生じた時に、その子や孫が委託者から贈与を受けたものとみなされます。受益者等には、受益者のほか「特定委託者」も含まれます。信託を変更する権限を持ち、信託財産の給付を受けることとされている人のことです(9条の2第5項)。
みなし取得の対象になった人は、信託財産に属する資産と負債を取得したものとして相続税法が適用されます(9条の2第6項)。
受益者が変わるときと信託が終わるとき
相続税法9条の2は、信託の途中で受益者が変わる場面も定めています。

表は左右に動かして読めます。
| 場面 | みなされる取得 | 条文 |
|---|---|---|
| 対価なしに新しい受益者等が現れた | 前の受益者等からの贈与(前の受益者等の死亡が原因なら遺贈) | 9条の2第2項 |
| 一部の受益者等がいなくなり、残る受益者等が対価なしに利益を受けた | いなくなった受益者等からの贈与(死亡が原因なら遺贈) | 9条の2第3項 |
| 信託が終わり、対価なしに残った財産を受け取る人が決まった | 受益者等からの贈与(受益者等の死亡で終了したなら遺贈) | 9条の2第4項 |
たとえば、親が受益者のまま亡くなり、契約に従って子が次の受益者になる場合です。子は親から遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象になります。親が生きている間に受益者を子に変えれば、贈与とみなされます。
信託が終わって残った財産を受け取る人のうち、帰属権利者は「受益者としての権利を現に有する者」に含まれません。国税庁が示す相続税法基本通達9の2-1の解説(資産課税課情報 第14号)にこの整理が書かれています。帰属権利者が財産を受け取るときは、9条の2第4項で扱われます。
受益者が亡くなった後の流れを契約でどう書くかで、誰にいつ税金がかかるかが変わります。契約を作る段階で税理士に見てもらうと安心です。
受託者が税務署に出す計算書と調書
受託者には、2種類の書類を税務署に出す義務があります。国税庁の手続案内では、どちらも手続の対象者は「信託の受託者」とされています。

表は左右に動かして読めます。
| 書類 | 根拠 | 期限 | 出さなくてよい主な場合 |
|---|---|---|---|
| 信託の計算書(同合計表) | 所得税法227条 | 信託会社以外の受託者は毎年1月31日まで | 受益者ごとの信託財産の収益の合計額が3万円以下(計算期間が1年未満なら1万5千円以下)(所得税法施行規則96条2項) |
| 信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表) | 相続税法59条3項 | 提出の事由が生じた月の翌月末日まで | 受益者ごとの信託財産の評価額の合計が50万円以下など(相続税法施行規則30条7項) |
計算書には、前年12月31日時点の資産と負債の内訳、前年中の収益と費用の額などを書きます(所得税法施行規則96条1項)。自宅を信託して家賃収入がない場合など、収益が3万円以下なら出す必要はありません。賃貸物件を信託した場合は、家賃の額によって提出が必要になります。
調書は、次の事由が生じたときに出します(相続税法59条3項)。
- 信託の効力が生じた
- 受益者等が変わった
- 信託が終わった
- 信託に関する権利の内容が変わった
相続税法施行規則30条7項は、出さなくてよい場合も定めています。信託の効力が生じたときに委託者と受益者等が同じ人なら、その事由での調書は要りません(5号イ(4))。信託が終わり、終了直前の受益者等が、持っていた権利に見合う残余財産を受け取る場合も同じです(5号ハ(5))。
国税庁は、どちらの書類もe-Taxのほか書面で出せると案内しています。書面の様式は令和8年8月に変わりました。書面で出すときは、国税庁のページにある最新の様式を使ってください。
信託した不動産の赤字は損益通算できない
信託した賃貸物件から生じる所得は、受益者の不動産所得として申告します(所得税法13条1項)。受託者の子ではなく、受益者の親が確定申告をする形です。

注意したいのが赤字の扱いです。租税特別措置法41条の4の2第1項は、信託の受益者である個人が信託から生じる不動産所得の損失を出した場合、その損失は所得税の計算上「生じなかつたものとみなす」と定めています。
損失の金額は、その信託から生じる不動産所得の総収入金額が必要経費に満たない部分です(租税特別措置法施行令26条の6の2第4項)。条文は、不動産所得の計算(所得税法26条2項)と損益通算(69条1項)などについて、この損失をなかったものとしています。そのため、信託した物件の赤字を、給与や年金などほかの所得から差し引くことはできません。信託していない物件の不動産所得とも差し引けません。
信託から生じる不動産所得がある人は、確定申告書にその所得の計算に関する明細書を添えます(同施行令26条の6の2第6項)。
大規模な修繕を予定している物件を信託するときは、赤字が出る年の扱いを含めて税理士に相談しておくと判断しやすくなります。
信託が終わるときの登録免許税
信託が終わって不動産を受託者から誰かに移すときは、その移転の登記に登録免許税がかかる場合があります。登録免許税法7条が扱いを分けています。

- 信託の始めから委託者だけが元本の受益者で、その委託者に財産を戻す: 非課税(7条1項2号)
- 同じ条件の信託で、受け取る受益者が信託を始めた時の委託者の相続人: 相続による移転とみなし、税率は1000分の4(7条2項、別表第一 1号(二)イ)
- 上のどちらにも当たらない: その他の原因による移転として1000分の20(別表第一 1号(二)ハ)
親が亡くなって信託が終わり、子が帰属権利者として不動産を受け取る形について、名古屋国税局は平成30年12月18日の文書回答で、7条2項が適用されるとする照会者の見解を認めました。帰属権利者は清算中は受益者とみなされる、という理由づけです。回答は、照会の事実関係を前提にしたもので、申告内容を拘束しないと断っています。
終わるときの財産の受け取りには、9条の2第4項による相続税や贈与税の扱いも重なります。費用の目安は家族信託の費用の内訳、契約の組み方は家族信託の始め方で確かめてください。税の負担まで含めて組み方を考えるなら、家族信託と税務の両方に詳しい相談先を選ぶと話が早くなります。
出典
- 相続税法(e-Gov法令検索・デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 相続税法施行規則(e-Gov法令検索・デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/law/325M50000040017
- 所得税法(e-Gov法令検索・デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- 所得税法施行規則(e-Gov法令検索・デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/law/340M50000040011
- 租税特別措置法(e-Gov法令検索・デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026
- 租税特別措置法施行令(e-Gov法令検索・デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/law/332CO0000000043
- 登録免許税法(e-Gov法令検索・デジタル庁) https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 国税庁「F1-33 信託の計算書(同合計表)」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100054.htm
- 国税庁「F2-5 信託に関する受益者別(委託者別)調書(同合計表)」 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100063.htm
- 国税庁 資産課税課情報 第14号(平成19年7月4日)「「相続税法基本通達」(法令解釈通達)の一部改正のあらまし(情報)」第9条の2関係 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/070704/04.htm
- 名古屋国税局 文書回答事例「信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」(平成30年12月18日) https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/sonota/181200/index.htm
いずれも2026年11月3日に確認しました。