家族信託の手引き

賃貸アパートを家族信託したときの税金 不動産所得と損益通算の制限

内容の確認日: 2026年11月3日

賃貸アパートを家族信託にしても、家賃収入は受益者の不動産所得として申告します。親が受益者なら、これまでどおり親の所得です。税の面で一番気をつけたいのは赤字の扱いで、信託から生じた不動産所得の損失は、所得税の計算上「生じなかったもの」とみなされ、ほかの所得と差し引けません。

信託する前は、アパートの赤字を給与や年金などの黒字と相殺できた人も、信託後はできなくなります。大規模な修繕や借入金の利息で赤字になる年がある物件は、信託の前に確かめておきたい点です。この記事は一般的な情報で、個別の判断は税理士や司法書士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。

家賃収入は受益者の不動産所得になる

所得税法13条1項は、信託の受益者(受益者としての権利を現に有する者に限る)が、信託財産に属する資産と負債を有するものとみなし、信託財産に帰せられる収益と費用も受益者のものとみなすと定めています。アパートの名義が受託者になっても、税金の上では受益者が持っているものとして扱われます。

札幌の集合住宅に並ぶバルコニー
写真: Sgroey / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

不動産所得は、国税庁のタックスアンサーによると、土地や建物などの不動産の貸付けによる所得です。計算式は「総収入金額 − 必要経費 = 不動産所得の金額」です。必要経費の主なものとして、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費が挙がっています。

家賃のほかに、更新料や、返還を要しない敷金・保証金、共益費の名目で受け取るお金も、総収入金額に入ります。

家族信託で親が委託者と受益者を兼ねる形なら、申告するのは親です。子が受託者として管理しても、子の所得にはなりません。反対に、最初から子を受益者にする形では、子が不動産所得を申告し、贈与税の扱いも出てきます。その整理は家族信託の税金と毎年の届出にあります。

信託の赤字は損益通算の対象外

不動産所得が赤字のとき、通常は他の黒字の所得から差し引けます。これを損益通算といいます。国税庁のタックスアンサーNo.1391には、損益通算の対象外になる損失がいくつか載っています。

水戸税務署の庁舎
写真: Miyuki Meinaka / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

信託に関するものは、租税特別措置法41条の4の2にあります。個人が信託の受益者(特定受益者)にあたり、信託から生ずる不動産所得を持つ場合に、その損失の金額は、所得税法26条2項と69条1項その他の所得税に関する法令の適用上、生じなかったものとみなされます。

損失の金額は、信託から生ずる不動産所得の総収入金額の合計が、必要経費の合計に満たない場合の、その満たない部分です(租税特別措置法施行令26条の6の2第4項)。

国税庁のタックスアンサーNo.1391は、この損失について、他の不動産所得の黒字から差し引くことも、損益通算の対象にすることもできないと説明しています。

数字で見ます。例として、信託したアパートの家賃収入が年500万円、必要経費が年560万円で、60万円の赤字になったとします。

場面赤字60万円の扱い
信託前(親が所有)他の所得の黒字から差し引ける。ただし、土地を取得するための借入金の利子にあたる部分は対象外(タックスアンサーNo.1391)
信託後(親が受益者)生じなかったものとみなされ、給与や年金の所得とは差し引けない
信託後、信託に入れていない別の賃貸物件が100万円の黒字その黒字と差し引くこともできず、100万円のまま

赤字の年は、他の所得にかかる税金を減らす効果が得られなくなります。黒字の年は、この規定は影響しません。

赤字になりやすい年と信託前に確かめること

必要経費に減価償却費や修繕費が入ることは、先に書いたとおりです。大規模な修繕をした年や、空室が増えた年は、収入より経費が上回ることがあります。

集合住宅の外観
写真: Tamaki Sono from Shiga, Japan / CC BY 2.0(Wikimedia Commons)

信託の前に、次の点を確かめておくと、判断しやすくなります。

  1. この数年の収支を並べ、赤字になった年があるか。
  2. 近いうちに大規模な修繕や外壁の塗り直しなどの予定があるか。
  3. 借入金の利息の負担がどれくらいか。
  4. 赤字が出た場合に、他の所得(年金、給与など)と相殺する前提で、いつもの納税額を見込んでいないか。

信託の中の収支を合わせて黒字にできるかは、条文の「合計額」の読み方に関わる細かい点です。同じ信託にどの物件を入れるかで結果が変わるかどうかは、税理士に具体的な数字で確かめてください。

赤字が見込まれる物件を信託するかどうかは、税金だけで決める話ではありません。親の判断能力が下がったあとの管理や、建て替え、売却の判断を誰ができるかも、同じくらい重い問題です。信託法26条により、受託者の権限は契約書で制限できます。修繕や借入れ、売却をどこまで受託者に任せるかは、契約書の段階で決めます。

貸付けの規模と青色申告の控除

不動産所得の計算には、貸付けが「事業として」行われているかどうかで違う部分があります。国税庁のタックスアンサーNo.1373によると、建物の貸付けでは、次のどちらかにあたれば、原則として事業として行われているものとして扱われます。

団地の建物
写真: Ebiebi2 / パブリックドメイン(Wikimedia Commons)
  • 貸間、アパート等は、貸与できる独立した室数がおおむね10室以上
  • 独立家屋の貸付けは、おおむね5棟以上

事業として行われている場合は、青色申告特別控除が令和8年分まで、一定の要件を満たせば最高55万円です。電子帳簿保存かe-Taxによる電子申告をしていれば65万円、それ以外の場合は最高10万円と案内されています。

ここに挙げたのは不動産貸付け一般の取り扱いです。信託の受益者について、同じ基準で事業的規模かどうかを判断するのかは、今回確かめた資料には書かれていません。また、令和9年分以降の控除額は、国税庁の最新のページで確かめてください。

信託したあとの手続きと相談先

赤字かどうかにかかわらず、信託から生じる不動産所得がある人は、確定申告のときに、その所得の計算に関する明細書を申告書に添付します(租税特別措置法施行令26条の6の2第6項)。国税庁は、この明細書を信託ごとに添付するとしています。

江戸川北税務署の庁舎
写真: Higa4 / CC0(Wikimedia Commons)

受託者にも手続きがあります。信託会社以外の受託者は、前年の収益の合計が3万円を超える受益者がいれば、毎年1月31日までに信託の計算書を税務署に出します(所得税法227条、同法施行規則96条2項)。詳しくは税金と毎年の届出の記事にまとめました。

信託を始めるときの税金では、地方税法73条の7第3号により、委託者から受託者に信託財産を移す場合の不動産の取得は、不動産取得税の非課税です。登録免許税や公証人の手数料など、始めるときの費用は費用の内訳の記事で説明しています。

相談先は、税理士と、契約書を作る司法書士や弁護士です。税理士には、過去の確定申告書と賃貸の収支がわかる資料を持って、赤字の見込みを相談します。契約書の段階から税の影響を確かめたいときは、契約書の作成から登記、口座開設まで一式を扱う事業者に相談する方法もあります。

出典

いずれも2026年11月4日に確認しました。

あわせて読む