家族信託の手引き

住宅ローンが残る不動産は家族信託にできる? 金融機関の承諾・抵当権・信託登記

内容の確認日: 2026年11月3日

住宅ローンが残っている不動産でも、信託法の条文の上では家族信託の対象から外れません。ただし、借入先の金融機関との契約が、担保になっている不動産を譲ったり、第三者のための権利を設けたりするときに、事前の承諾を求めている例があります。信託の手続きより先に、借入先に相談するのが順番です。

抵当権は、信託をしても消えません。ローンの返済義務を負う人も、信託の契約だけでは変わりません。この記事は一般的な情報で、個別の判断は司法書士や弁護士などの専門家にお願いします。金融機関ごとの取り扱いは、借入先に確認してください。内容は2026年11月4日に確認しました。

まず借入先の契約書を読む

ローンが残る不動産を信託するとき、最初に読むのは借入先との契約書です。信託法は、ローンの有無で信託の可否を分けていません。可否を左右するのは、金融機関との契約の中身です。

戸建て住宅が並ぶ住宅地
写真: NISHIGUCHI,Masahiro (Nisiguti) / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

契約の例として、山陰合同銀行の「住宅ローン契約内容のご説明」(2026年8月1日現在)を確認しました。抵当権設定契約証書の解説に、次の記述があります。

  • 銀行の事前承諾なく、「担保物件の譲渡・変更」および「第三者のための権利設定」はできない(第3条、第8条)。
  • お借主が期限の利益を失った場合などには、銀行は担保物件を処分し、売却代金をローンの返済に充てる(第7条)。

この資料は信託に触れていません。信託で受託者に所有権を移すことが、ここでいう「譲渡」や「第三者のための権利設定」に当たるかは、資料からは確かめられません。契約書の文言も、金融機関ごとに違います。

住宅金融支援機構の【フラット35】のページ(更新日2024年9月3日)も参考になります。返済の途中で住宅を他人に譲り渡すときは、融資金の全額を返すことになると書かれています。機構の承諾を得て債務を引き継げる場合もあるとされますが、離婚などの事情があるときの例で、引き継ぐ人がその住宅に住み、機構の債務を返すことが前提です。このページにも、家族信託の記載はありません。

以上から言えるのは、住宅ローンの契約には、担保物件の名義や権利の変更を銀行が管理する条項が置かれている例がある、ということです。手元の契約書で次の条項を探してください。

  • 担保物件の譲渡や変更、権利の設定についての定め
  • 期限の利益を失う事由(一括返済を求められる場合)
  • 住宅の使い方(自分が住むことなど)についての定め

探してもわからないときは、契約書を持って借入先の窓口で聞くのが確実です。信託の契約書の案ができた段階で見せ、承諾の条件を書面で確かめます。

抵当権は信託しても残る

抵当権とは、債務者や第三者が占有を移さずに担保として出した不動産について、他の債権者より先に弁済を受けられる権利です(民法369条)。住宅ローンでは、銀行や保証会社がこの権利を持つのが一般的です。

石造りの柱が並ぶ盛岡信用金庫本店の建物
写真: Daderot / CC0(Wikimedia Commons)

信託法には、信託の前から付いていた権利の扱いを定めた条文があります。

  • 21条1項2号: 信託財産に属する財産について、信託前の原因によって生じた権利に係る債務は、信託財産責任負担債務になる。
  • 23条1項: 信託財産に属する財産への強制執行や担保権の実行は、信託財産責任負担債務に係る債権に基づく場合を除き、できない。

この2つを合わせて読むと、信託の前に設定された抵当権に基づく担保権の実行は、信託の後も妨げられないと整理できます。信託したからといって、銀行の担保が外れるわけではありません。

ここまでは、条文から整理した法律の話です。金融機関が信託をどう扱うかは、契約書の文言と各社の取り扱いによるため、別に確かめます。

返済する人は信託では変わらない

信託で受託者に移るのは、不動産という財産です。委託者がローンを借りた債務者のままなのか、受託者が返済を引き受けるのかは、別の問題として扱います。

横浜地方法務局旭出張所の庁舎
写真: Suikotei / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

民法は、債務を引き受ける人を加える方法を2つ定めています。

  • 免責的債務引受(472条): 引受人が債務を負い、元の債務者は免れる。債務者と引受人が契約し、債権者が引受人に承諾をすることでもできる。
  • 併存的債務引受(470条): 引受人が債務者と連帯して同じ債務を負う。

どちらの方法でも、債権者である金融機関の関与が出てきます。信託の契約書に返済の定めを書いても、それだけでローンの債務者は変わりません。条文の読み方としてはそうなります。住宅ローンの債務者の変更が認められるかは、金融機関の審査によります。

実際に返済のお金をどう出すかは、信託の設計で決めます。信託が始まっても債務者が親のままなら、親の口座からの引き落としを続ける形も考えられます。信託口口座から返済する形にするなら、引き落とし口座の変更を借入先が認めるかを確かめます。これらは、契約内容と金融機関の取り扱いで変わる部分です。一般的な定めは今回確かめられなかったので、書きません。借入先に聞く項目として、メモしておいてください。

債務の扱いの全体像は、家族信託にできる財産・できない財産で説明しています。

承諾が得られた後の信託登記

金融機関の承諾が得られたら、通常の不動産の信託と同じく、法務局で信託の登記をします。

店頭に並んだ印鑑
写真: Nesnad / CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

手続きの要点は次のとおりです。

  • 信託の登記は、所有権の移転の登記と同時に申請する(不動産登記法98条1項)。
  • 信託の登記は、受託者が単独で申請できる(同条2項)。
  • 登記事項には、委託者、受託者、受益者の氏名と住所、信託の目的、財産の管理方法、終了の事由などが入る(97条1項)。
  • 登記をしなければ、信託財産であることを第三者に主張できない(信託法14条)。

登記の費用や、契約から口座開設までの順番は、費用の内訳の記事と始め方の記事に載せています。ローンの承諾が遅れると、登記の日程に影響します。契約書の作成と並行して、借入先との話を進めるのが無理のない進め方です。

借入先に聞くことと相談先

金融機関の窓口で、次の点を聞いておくと、話が進みます。

田園地帯に建つ団地
写真: Ebiebi2 / パブリックドメイン(Wikimedia Commons)
  1. 担保になっている不動産を信託して受託者名義にすることに、承諾が要るか。要るなら、承諾の条件は何か。
  2. 承諾をもらうために、信託契約書の案や登記事項の資料は必要か。
  3. 債務者は委託者のままでよいか。返済の口座は変えられるか。
  4. 信託後に、金利や返済条件が変わることはあるか。
  5. 承諾しない場合、ローンを完済する、借り換える、といった別の道があるか。

金融機関の中には、信託と融資を組み合わせた商品を扱うところもあります。世田谷信用金庫の「ハッピーエンド&バトン」は、家族間で自宅を信託したうえで、受託者となった後継者が、その不動産を担保にローンを契約する商品です。自宅向けの「リバースモーゲージ型ローン」は、使い道に住宅ローンの返済も挙げています。家族間の信託と融資には、同金庫所定の条件があり、審査の結果によっては希望に添えない場合があるとされています。この商品の趣旨は、すでに残っているローンを信託する話とは別です。金融機関によって信託への姿勢が違うことを示す例として挙げました。

相談先は、契約書を作る司法書士や弁護士、借入先の金融機関、信託を扱う事業者などです。ローンの承諾の話は、契約書の案と合わせて持っていくと、金融機関も判断しやすくなります。

出典

いずれも2026年11月4日に確認しました。

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