家族信託の専門家の選び方 司法書士・弁護士・行政書士・税理士の役割と契約前の質問
家族信託の相談先は、資格の名前よりも、頼みたい仕事で選ぶと迷いが減ります。登記の代理は司法書士、相続人どうしの争いや法律事務全般は弁護士、相続税の申告は税理士と、法律で業務が分かれているためです。
契約前には、依頼者はだれか、費用の範囲、公正証書にするか、金融機関への確認、税務はだれが見るか、を聞いておくと安心です。この記事は一般的な情報で、個別の判断は司法書士・弁護士・税理士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
士業ごとに法律で決まっている仕事
家族信託には、契約書づくり、登記、金融機関との調整、税務と、いくつかの仕事が含まれます。士業ごとにできる仕事は、それぞれの法律に書かれています。

表は左右に動かして読めます。
| 資格 | 法律に書かれた主な仕事 | 根拠 |
|---|---|---|
| 司法書士 | 登記や供託の手続の代理。法務局や裁判所に出す書類の作成。これらの相談 | 司法書士法3条1項 |
| 弁護士 | 訴訟事件・非訟事件・審査請求のほか、一般の法律事務。税理士の事務も当然に行える | 弁護士法3条 |
| 行政書士 | 官公署に出す書類や、権利義務・事実証明に関する書類の作成 | 行政書士法1条の3 |
| 税理士 | 税務代理、税務書類の作成、税務相談 | 税理士法2条 |
それぞれ、他の法律で制限されている業務は行えません(司法書士法3条8項、行政書士法1条の3第2項)。税理士でない人は税理士の業務を行えず(税理士法52条)、弁護士でない人は報酬を得て法律事件を扱えません(弁護士法72条)。
日本司法書士会連合会のガイドラインは、司法書士の民事信託の支援業務として、相談対応、信託契約書の案文の作成、金融機関の口座開設の支援、登記、信託事務の支援を挙げています。税務は専門家との連携が必要としています。争いが起きて法律行為が必要になった場合は、弁護士の選任を促すとしています。
「家族信託の専門家」という呼び名の確かめ方
家族信託は、法律上は「民事信託」と呼ばれることがあります。ただ、民事信託に法令上の定義はありません。日本司法書士会連合会のガイドラインは、これを「信託業法の適用を受けない信託」と定義しています。

信託業法3条は、信託業を内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ営めないと定めています。信託業とは、信託の引受けを営業として行うことです(同法2条1項)。同じガイドラインは、司法書士は受託者になれないと書いています。受託者は、委託者の親族などの家族が務めるのが家族信託の基本の形です。
肩書を見るときは、次の点を確かめます。
- どの資格を持つ人が、契約書づくりと登記のそれぞれを担当するのか。
- 自分の家の状況に近い案件を、どう扱うのか。たとえば自宅だけを信託するのか、賃貸アパートや預金も含めるのか。
- 信託が合わない場合に、ほかの方法を説明してくれるのか。
信託では身上保護(本人の暮らしや医療の判断)はできません。年金を受け取る権利のような本人だけのものは信託できず、受託者が耕作する目的で農地法3条の許可を得ることもできません。日本司法書士会連合会のガイドラインも、こうした場合は後見制度や遺言の併用を検討するとしています。向かない場合は家族信託でできないことの記事、後見制度との違いは成年後見・任意後見との違いの記事で説明しています。
契約前に聞いておきたい質問
日本司法書士会連合会のガイドラインには、専門家が相談から契約までに確かめる事項が書かれています。依頼する側から見ると、次の質問に置き換えられます。

- 依頼者はだれですか。委託者だけか、委託者と受託者の両方か。ガイドラインは、見解が分かれるとしたうえで、どちらの場合も委託者の意思を最も重視し、受託者の利益に誘導されてはならないとしています。受託者になる予定の人だけが相談に来た場合は、できるだけ早く委託者に会うことを求めています。
- 報酬はだれが払い、費用の概算はいくらですか。ガイドラインは、報酬は委託者から受け取ることが望ましいとしています。また、業務の内容と範囲を委任契約書で明確にするとしています。
- 契約書は公正証書にしますか。信託契約は、書面がなくても成立します。ガイドラインは、公正証書で作ると公証人が意思能力を確かめられ、将来の争いを防ぐ効果があるとし、特段の事情がなければ公正証書での作成を支援するべきだとしています。公正証書にすることを信託口口座の開設の条件とする金融機関も多いと書かれています。
- 金融機関にはいつ確認しますか。信託口口座に対応していない金融機関もあり、契約書の案文を事前に審査する金融機関も多いため、依頼先の金融機関の対応を先に調べる必要があるとされています。
- 税務はだれが見ますか。信託の税制には解釈が不明確な点があるとして、税務の専門家との連携を求めています。すでに顧問税理士がいる場合は、その意向を確認します。契約後に受益者別調書や信託の計算書が必要になる場合があることも、依頼者に説明するとされています。
- 契約後は、どこまで見てもらえますか。受託者の事務の支援、信託監督人の就任などです。ガイドラインは、相談を受けた専門家が信託監督人などに就く場合は、受託者に問題が起きたときに責任を追及しにくくなる利益相反に注意すると書いています。
契約書づくりから登記までの流れは家族信託の始め方の記事、監督人が必要になる場面は信託監督人・受益者代理人の記事で説明しています。
費用の見積もりと、事業者に頼む場合
費用の内訳は、専門家報酬、公証人手数料、登録免許税などに分かれます。見積もりを比べるときは、どこまでが報酬に含まれるかをそろえます。契約書の作成だけなのか、登記や口座開設の支援まで含むのかで、金額が変わります。内訳は費用の内訳の記事で説明しています。

士業の事務所に直接頼む方法のほかに、家族信託の組成を支援する事業者に頼む方法もあります。たとえば「おやとこ」を運営する株式会社こころのカンパニーの公式サイトでは、契約書の作成は弁護士、登記は司法書士が担当し、それぞれ別途費用がかかると書かれています。同社の公式サイトによると、初期費用は231,000円(税込)から、月額は2,728円(税込)からで、信託財産額に応じて算定されます。作成方法や財産の内容によってはオプション費用がかかる場合があり、無料相談で見積もられるとされています。
事業者に頼む場合も、見るポイントは同じです。契約書と登記の担当者の資格、費用の範囲、公正証書にするかを確かめます。
複数の専門家が関わるときの整理
案件によっては、司法書士、弁護士、税理士が同時に関わります。窓口を一つにするか、各専門家と別々にやり取りするかを、契約前に決めておくと混乱が減ります。

- 契約書の案文と公正証書: 作成を頼んだ専門家が公証役場との打合せまで担当するのか。
- 登記: 申請の担当者と、完了後に登記事項証明書などの書類を受け取る人。
- 金融機関: 信託口口座の開設の際に、専門家が同席するのか、家族だけで行くのか。
- 税務: 贈与税や相続税の見通しを、契約前に税理士から聞けるのか。
信託の目的や家族の事情は、専門家に伝える前に家族で話し合っておきます。その順番は家族信託とはの記事で説明しています。
出典
- 司法書士法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 弁護士法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205
- 行政書士法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004
- 税理士法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- 信託業法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000154
- 日本司法書士会連合会「民事信託支援業務の執務ガイドライン」(令和6年11月) https://www.shiho-shoshi.or.jp/c4b8ab40b728505734ac88e3806935efd5a21761.pdf
- 家族信託「おやとこ」公式サイト(株式会社こころのカンパニー) https://kokorono.co.jp/oyatoko/
いずれも2026年11月4日に確認しました。