家族信託にできる財産・できない財産 不動産・預貯金・株式・借入金
家族信託では、不動産や現金、預貯金、株式のように、受託者に移して管理や処分を任せられる財産を信託します。一方、借入金のような債務は、財産と同じ形では預けられません。信託をしても、返す義務を負う人は自動では変わらないからです。
信託法の条文は、信託の対象を細かく列挙していません。そのため、財産の種類ごとに、移し方の手続きと、相手方の同意が要るかを確かめる作業が中心になります。この記事は一般的な情報で、個別の判断は司法書士や弁護士、税理士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
信託の対象は「受託者に移せる財産」
信託法2条3項は、信託財産を「受託者に属する財産であって、信託により管理又は処分をすべき一切の財産」と定めています。種類による限定は、この定義の中にはありません。

契約で信託をする場合を定めた3条1号は、委託者が受託者に「財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分」をすることを前提にしています。つまり、委託者から受託者へ移せる財産でなければ、信託の対象になりません。
ここから、実際の見分け方は次の2点になります。
- 法律や契約で、移すこと自体が禁じられていないか。たとえば年金を受け取る権利は、国民年金法24条で譲り渡せないと定められています。
- 相手方の同意や名義の書き換えが要らないか。要る場合は、その手続きまで含めて計画する。
年金や農地のように、法律で信託が難しい財産は、家族信託でできないこと・向かない場合で説明しています。この記事では、主に使われる財産の種類を順に見ます。
不動産は信託登記で受託者に移す
自宅、実家、賃貸アパートや土地は、家族信託でよく対象になる財産です。移す手続きは、法務局での登記です。

信託法14条は、登記や登録をしなければ権利の変動を第三者に主張できない財産は、信託の登記や登録をしなければ、信託財産に属することを第三者に主張できないと定めています。不動産がこれに当たります。信託の登記は、所有権の移転の登記と同時に申請します(不動産登記法98条1項)。受託者が単独で申請できます(同条2項)。
さらに信託法34条1項1号は、信託の登記ができる財産について、受託者が分けて管理する方法を、その信託の登記と定めています。同条2項により、この登記をする義務は信託の契約で免除できません。
不動産の信託では、次の点が別に問題になります。
- 住宅ローンが残っている場合: 金融機関との関係を先に確かめます。住宅ローンが残る不動産の記事で説明しています。
- 賃貸物件の場合: 家賃収入の税金の扱いが変わります。賃貸アパートの記事で説明しています。
- 登記の費用: 費用の内訳の記事にあります。
預貯金と株式は名義と口座の手続きが要る
現金や預貯金も、信託財産にできます。信託法34条1項2号ロは、金銭などの登記や登録ができない財産について、その計算を明らかにする方法で分けて管理すると定めています。受託者は、自分のお金と信託のお金を、帳簿の上でも区別します。

預貯金は、信託のためのお金を入れる口座をどうするかが問題になります。金融機関の中には、家族信託のための口座を扱うところがあります。飯能信用金庫の2023年3月30日の発表では、口座開設の手数料は55,000円(税込)で、契約書は専門家が作り、最終的に公正証書として提出できる人が対象です。取り扱いは金融機関ごとに違います。口座の話は信託口口座の記事で詳しく説明しています。
株式は、会社と証券会社の手続きが関わります。会社法154条の2第1項は、株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載しなければ、会社その他の第三者に対抗できないと定めています。株主は、株式が信託財産に属するときは、その旨を株主名簿に記載することを会社に請求できます(同条2項)。
なお、株券を発行している会社の株式には、この規定は適用されません(同条4項)。証券会社の口座で管理している株式を、信託の形でどう扱うかについては、証券会社の取り扱いを定めた一次資料を確かめられなかったため、この記事では書きません。信託する前に、株式を預けている証券会社や会社に問い合わせてください。
借入金などの債務は預けられない
財産の信託と、債務の扱いは別です。信託で受託者に移るのは財産で、委託者が過去に負った借金の返済義務が、そのまま受託者に移るわけではありません。

条文の側から見ると、信託法21条1項は、信託財産で履行する責任を負う債務(信託財産責任負担債務)の範囲を定めています。その3号は、信託前に生じた委託者に対する債権について、その債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為の定めがあるものを含めています。契約書にそう書くことは、仕組みの上では想定されています。
ただし、債権者の側から見れば、返済する人が変わることになります。民法には、債務を引き受ける人を入れる方法として、次の2つがあります。
- 併存的債務引受: 引受人が債務者と連帯して同じ債務を負う(民法470条)。債権者と引受人の契約でできます。債務者と引受人の契約で行う場合は、債権者が引受人に承諾した時に効力が生じます。
- 免責的債務引受: 引受人が債務を負い、元の債務者は債務を免れる(472条)。債権者と引受人の契約でできます。債務者と引受人の契約でする場合は、債権者が引受人に承諾することが必要です。
どちらの方法でも、債権者の関与が出てきます。借入金を信託の中に取り込む契約書を書いただけでは、金融機関に対する返済の関係は変わりません。借入金がある場合は、金融機関に事前に相談する、というのが現実的な順番です。
以上は条文から整理した内容です。借入金を信託の枠組みに入れる具体的な方法は、金融機関の取り扱いや契約内容で変わるため、契約書を作る専門家と金融機関に確かめてください。
預ける財産の選び方と相談先
信託できる財産がわかったら、実際に何を預けるかを決めます。全部を預ける必要はありません。親の生活費や介護の費用を管理するための預貯金と、将来の売却や管理が心配な不動産に絞る、という選び方もあります。

信託法には、財産を預ける際の限界もあります。債権者を害することを知って信託をした場合、債権者は受託者を被告として、詐害行為取消請求ができます(11条)。訴訟行為をさせることを主たる目的とする信託はできません(10条)。
財産ごとの注意点を、次の順で確認すると整理しやすくなります。
- 預ける財産を一覧にする(不動産、預貯金、株式、借入金の有無)
- それぞれの名義変更や登記、口座の手続きと、相手方の同意が要るかを確かめる
- 信託しない財産の行き先(遺言など)を考える
- 費用と税金を見積もる
財産の種類が多いほど、確認する窓口も増えます。登記は法務局、預貯金は金融機関、株式は会社や証券会社と、窓口が分かれます。
出典
- 信託法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 民法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 会社法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 不動産登記法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 国民年金法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000141
- 飯能信用金庫「家族信託口口座」取扱開始のお知らせ(2023年3月30日) https://www.shinkin.co.jp/hanno/news/23/20230401_3.pdf
いずれも2026年11月4日に確認しました。