家族信託の手引き

家族信託の契約書は公正証書にするべき? 作り方と公証役場での手続き

内容の確認日: 2026年11月3日

家族信託の契約書は、法律の上では公正証書にしなくても有効に成り立ちます。信託法3条1号の信託契約は、委託者と受託者が契約を結んだ時に効力が生じる(4条1項)と定められ、書面の形式や公正証書は条件になっていません。

それでも公正証書にする例があります。理由は、金融機関の口座開設で求められる例があることと、公証人が内容や本人の意思を確かめて作る公文書で、証拠としての力が強いことです。この記事では、契約書に入れる項目と、公証役場での手続きの流れを順に説明します。この記事は一般的な情報で、個別の判断は司法書士や弁護士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。

公正証書にしなくても契約は成り立つ

信託法3条は、信託をする方法を3つ挙げています。1号が信託契約、2号が遺言、3号が自己信託です。親が子に財産を託す家族信託の多くは、1号の信託契約です。

机の上に開いたノートとペンと眼鏡
写真: Shixart1985 / CC BY 2.0(Wikimedia Commons)

4条1項は、1号の信託を「信託契約の締結によってその効力を生ずる」としています。条文には、契約書の様式や公正証書の定めがありません。

公正証書などの形が条文に出てくるのは、自分の財産を自分で管理する自己信託(3号)の場面です。4条3項は、公正証書か公証人の認証を受けた書面で行う場合は、その作成で効力が生じると定めています。それ以外の書面なら、受益者となる人への確定日付のある証書による通知が効力の条件です。

では、なぜ公正証書にするのでしょうか。金融機関の手続きが関わるからです。次の資料に、その例があります。

  • 日本郵便の解説コラムは、信託口口座の開設では、専門家が作った信託契約書の提出を求められることがほとんどだと説明しています。公正証書にする手順は「推奨」と書かれています。
  • 飯能信用金庫の2023年3月30日の発表は、家族信託口口座の対象を、契約書を弁護士や司法書士などの専門家が作り、最終的に公正証書として提出できる人としています。

どちらも、法律の条件ではなく、金融機関側の取り扱いの話です。口座を作る予定の金融機関があるなら、契約書を作る前に条件を聞いておくと、作り直しを避けられます。口座の詳しい話は信託口口座の記事にまとめました。

契約書に入れる項目

契約書に何を書くかは、信託法の条文と登記の項目から整理できます。信託法には、契約書の定めが優先する規定が多くあります。書かなければ法律の標準の扱いになり、書けば家族の事情に合わせた扱いになります。

キャップを外した万年筆
写真: Auyon / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

主な項目と、根拠になる条文は次のとおりです。

  • 当事者: 委託者、受託者、受益者。不動産の信託登記の登記事項にも、この3者の氏名と住所が入ります(不動産登記法97条1項1号)。
  • 信託の目的: 何のために財産を預けるのか。登記事項でもあります(同項8号)。
  • 信託財産: 預ける不動産や金銭を特定する。
  • 受託者の権限: 受託者は管理や処分の権限を持ちますが、信託行為で制限できます(信託法26条)。売却や賃貸、借入れを認めるかどうかは、ここで決めます。
  • 注意義務: 受託者は善良な管理者の注意で信託事務を行います。契約書に別段の定めがあれば、その定めによります(29条2項)。
  • 報告の方法: 毎年1回、貸借対照表などを作って受益者に報告します。契約書に別段の定めがあれば、その定めによります(37条2〜3項)。
  • 信託の変更: 委託者、受託者、受益者の合意でできます(149条1項)。契約書で別の定めも置けます(同条4項)。
  • 受託者の交代: 受託者が亡くなった場合などに任務が終わります(56条1項)。次の受託者を契約書で指定しておけば、その人が引き継ぎます(62条)。
  • 終了と残りの財産: 終了の事由は契約書に書けます(163条9号)。残った財産を誰に渡すかは、帰属権利者として指定します(182条)。

不動産の信託登記では、登記官が信託目録を作成することができます(不動産登記法97条3項)。その元になる項目には、信託の目的、財産の管理方法、終了の事由、その他の信託の条項があります(同条1項8〜11号)。契約書の文面と登記の内容が食い違わないように、登記の項目を意識して書きます。

項目ごとの考え方は、家族信託の基本の記事と受託者の義務の記事で説明しています。

公証役場での手続きと持っていく書類

公正証書は、公証人が当事者の依頼を受けて作る公文書です。日本公証人連合会は、公文書には文書が本物だという強い推定が働き、反証がない限り完全な証拠力があると説明しています。

岩手県一関市の公証役場が入る建物
写真: Ebiebi2 / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

公証人は、法令に違反する事項、無効な行為、行為能力の制限で取り消せる行為について、公正証書を作れません(公証人法26条)。本人の意思が確かめられない契約は、公正証書にならないということです。

日本公証人連合会の「必要書類」のページには、すべての公正証書に共通する本人確認の資料が載っています。当事者が個人で本人が来る場合は、次のどれかです。

  • 印鑑登録証明書と実印
  • 運転免許証と認印
  • マイナンバーカードと認印
  • パスポート、身体障害者手帳または在留カードと認印

印鑑登録証明書は、発行から3か月以内のものに限られます。代理人が行く場合は、委任内容が書かれた委任状と、本人の印鑑登録証明書が要ります。白紙委任状は認められません。

ここに挙げたのは共通の資料です。信託の公正証書のために、不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書などを求められるかは、連合会のページに載っていません。遺言や離婚の公正証書の必要書類は個別に載っていますが、信託の項目はありません。どの書類を用意するかは、公証役場か依頼した専門家に聞いてください。

費用のうち、公証人の手数料には信託の加算があります。信託財産が1億円以下なら、手数料令22条の2により1万3,000円が加算されます。金額の計算は費用の内訳の記事に載せました。

電子化とウェブ会議での作成

公正証書の作り方は、2025年10月から変わっています。日本公証人連合会によると、令和7年10月1日の公証人法の改正で、法務大臣が指定する公証人が作る公正証書は、原則として電磁的記録で作られます。

机の上のノートパソコンと手帳とペン
写真: www.Pixel.la Free Stock Photos / CC0(Wikimedia Commons)

変わる点を整理します。

  • 原本はPDF形式の電磁的記録です。署名押印の代わりに、パソコンの画面で電子サインをします。
  • 嘱託人が紙か電磁的記録かを選ぶことはできません。書面で作る例外は、法律で書面が前提とされる場合や、技術的に難しい場合などです。
  • 正本や謄本は、紙でも、電子署名つきの電磁的記録でも受け取れます。
  • 条件を満たせば、公証役場に行かずにウェブ会議で作成できます(リモート方式)。

リモート方式を使えるのは、次の3つが全部そろった場合です。

  1. 嘱託人の申し出があること
  2. 通訳人と証人だけのウェブ会議参加を除き、他の嘱託人に異議がないこと
  3. 公証人が相当と認めること

連合会は、遺言や任意後見のように本人の意思の確認が重要なものは、許容されるかを慎重に判断するとしています。家族信託の契約についての個別の扱いは、連合会のページからは確かめられませんでした。使いたい場合は、公証役場に相談してください。必要な機材も定められています。パソコンとカメラ、マイク、スピーカーが要り、タブレットやスマートフォンは使えません。

代理人による作成にも注意があります。連合会は、任意後見など公証人が本人の判断能力と契約意思を確認する必要がある契約は、原則として代理を認めないとしています。家族信託の委託者が高齢で体調が心配な場合は、どの方法で本人確認をするか、早めに公証役場と話しておきます。

作ったあとの手続きと相談先

契約書を公正証書にしても、それだけでは信託は完結しません。不動産があれば、法務局で所有権の移転と信託の登記を申請します。信託の登記は、権利の移転の登記と同時に申請します(不動産登記法98条1項)。登記をしなければ権利の変動を第三者に主張できない財産は、信託の登記をしなければ、信託財産であることを第三者に主張できません(信託法14条)。

横浜地方法務局旭出張所の庁舎
写真: Suikotei / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

金銭は、信託口口座などで受託者の固有の財産と分けて管理します。この順序と登記の費用は、始め方の記事で説明しています。

契約書を自分で作るか、専門家に頼むかの判断材料もあります。日本郵便のコラムは、自分で手続きすることも可能としながら、契約書の作成には高度な法律知識が求められ、不備があると想定どおりの効果が得られない、税務上の問題や家族間のトラブルにつながるおそれがあると述べています。また、専門家に依頼すると、コンサルティング費用や契約書作成費用として数十万円かかる場合があるとも書いています。

契約書の作成や登記、口座開設まで一式を扱う事業者もあります。見積もりを比べるときは、契約書の作成、公証役場との調整、登記、口座開設の手伝いのどこまでが料金に含まれるかを見ます。相談の窓口は、司法書士、弁護士、金融機関の取次サービス、信託を扱う事業者など、いくつかあります。

出典

いずれも2026年11月4日に確認しました。

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