家族信託の手引き

家族信託と生前贈与のちがい 暦年贈与・相続時精算課税・贈与税

内容の確認日: 2026年11月3日

生前贈与は財産を相手に渡して相手のものにする方法で、家族信託は財産の管理を家族に任せる方法です。贈与した財産は贈与を受けた人のものになりますが、家族信託では、財産から利益を受ける権利を本人に残せます。

税金の面では、贈与は受け取った人に贈与税がかかる場合があります。委託者本人が受益者のままの家族信託は、新しく権利を得る人がいないため、信託の設定時に贈与税がかかる形ではありません。この記事は一般的な情報で、個別の判断は税理士や司法書士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。

財産がだれのものになるか

民法549条は、贈与を「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって効力を生ずる」と定めています。贈与が済んだ財産は、受け取った人の財産です。書面によらない贈与は各当事者が解除できますが、履行が終わった部分は解除できません(550条)。

土壁の日本の伝統的な家屋
写真: タクナワン / CC0(Wikimedia Commons)

家族信託では、財産の名義は受託者に移ります。信託協会の説明でも、信託すると所有権は受託者に移るとされています。ただし受託者は、受益者として信託の利益を受ける場合を除き、信託の利益を受けられません(信託法8条)。利益を受ける権利は受益者にあり、本人を受益者にすれば、本人のために財産が管理されます。

表は左右に動かして読めます。

比べる点生前贈与家族信託
財産の持ち主贈与を受けた人名義は受託者。利益を受ける権利は受益者
渡す相手贈与の相手(受諾が必要)受託者。受益者は本人にも家族にも決められる
主な税金受け取った人に贈与税受益者等が変わる場面で課税の判断
手続き贈与の合意。不動産は名義変更信託契約。不動産は信託の登記

信託の仕組みは家族信託とはの記事、契約から登記までの手順は家族信託の始め方の記事で説明しています。

贈与税の暦年課税

贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2つの課税方法があります。先に暦年課税から説明します。国税庁のタックスアンサーによると、1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額から、基礎控除額110万円を引いた残りに税率を掛けます。

税務署の建物
写真: Ebiebi2 / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

18歳以上の人が父母や祖父母などの直系尊属から受けた贈与には、特例税率を使います。速算表の最初の区分は次のとおりです。

表は左右に動かして読めます。

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%なし
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円

たとえば、親から子へ1年間に310万円を贈与した場合の計算は次のとおりです。310万円から110万円を引いた200万円に、10%を掛けて20万円になります。

贈与の合計が年110万円を超えるときは、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに申告します。

暦年課税の贈与にも、相続との関わりがあります。相続開始前の贈与は、相続税の計算に加算されます。国税庁によると、加算される期間は相続の開始日によって次のように変わります。

相続開始日加算の対象期間
令和8年12月31日まで相続開始前3年以内
令和9年1月1日から令和12年12月31日まで令和6年1月1日から死亡の日まで
令和13年1月1日以後相続開始前7年以内

加算された贈与に課された贈与税額は、相続税額から控除されます。

相続時精算課税という選び方

相続時精算課税は、贈与のときの税金を軽くし、贈与した人が亡くなったときに精算する仕組みです。国税庁のタックスアンサーによると、対象は次のとおりです。

税務署の庁舎
写真: Hirho / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
  • 贈与する人: 贈与の年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母など。
  • 贈与を受ける人: 贈与の年の1月1日時点で18歳以上の、贈与者の推定相続人である子や孫など。

選ぶときは、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、所轄の税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を出します。選択は贈与者ごとに行い、一度選ぶと、その贈与者からの贈与は暦年課税に戻せません。

税額の計算は次の順です。年ごとに贈与額から110万円の基礎控除を引き、残りから累計2,500万円までの特別控除を引きます。特別控除を超えた部分には、一律20%がかかります。特別控除を受けるには、期限内の申告が必要です。

贈与した人が亡くなったときは、贈与を受けた年ごとの贈与時の価額から基礎控除110万円を引いた残りが、相続税の課税価格に加算されます。すでに払った贈与税相当額は、相続税額から控除され、引ききれない分は還付を受けられます。

この制度では、贈与の時点で財産が相手のものになる点は変わりません。贈与された財産の使い道を、渡したあとに本人が決めることはできません。

家族信託と贈与税の関係

相続税法9条の2第1項は、信託の効力が生じた場合に、適正な対価を負担せずに受益者等(受益者としての権利を現に有する者と特定委託者)になる人がいれば、その人は委託者から贈与で権利を取得したものとみなすと定めています。

山形県の伝統的な養蚕農家
写真: タクナワン / CC0(Wikimedia Commons)

委託者本人が受益者になる信託では、新しく権利を得る人がいません。そのため、信託の設定の時点では、贈与とみなされる場面にあたりません。受益者を子などの別の人にした信託や、あとから受益者を追加・変更する場合は、その人が贈与を受けたものとみなされる場合があります(同条1項・2項)。

贈与とみなされる形、毎年の届出、計算書の出し方は税金と毎年の届出の記事で説明しています。

贈与も信託も、本人に判断能力があるうちにしか結べません。民法3条の2は、意思表示をしたときに意思能力がなかった場合、その法律行為を無効としています。認知症の診断が出てからでは、どちらの手続きも進められない場合があります。

どちらを選ぶかの考え方

戸建て住宅が並ぶ住宅地
写真: NISHIGUCHI,Masahiro (Nisiguti) / CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

目的で整理すると、次のようになります。

  • 財産を早めに渡して、受け取る人に自由に使ってもらいたい: 生前贈与。
  • 自分の財産は自分の生活のために使い続けたい。ただし管理は家族に任せたい: 家族信託。
  • 将来の相続税を考えて、早めに渡したい: 暦年課税か相続時精算課税の贈与。加算の期間や控除の違いを、税理士に確かめる。
  • 一部は渡し、一部は管理を任せたい: 財産ごとに、贈与と信託を併用する。

家族信託は、贈与のように財産を渡す方法ではありません。相続税対策として単純に比べられない点は、家族信託でできないこと・向かない場合の記事でも説明しています。

贈与税や相続税の計算は、財産の種類や家族の状況で変わります。契約前に、税理士や司法書士へ相談してから決めます。専門家の選び方は専門家の選び方の記事にまとめました。

出典

いずれも2026年11月4日に確認しました。

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