家族信託の委託者が亡くなったらどうなる 信託は終わる?委託者の地位・信託法147条・相続税
家族信託の委託者が亡くなっても、信託が自動で終わるわけではありません。信託法163条が挙げる終了事由に「委託者の死亡」はなく、信託が続くか終わるかは、信託契約に書いた定めで決まります。
委託者の地位や受益権がだれのものになるかも、契約の定めと、信託を契約で作ったか遺言で作ったかで変わります。相続税は、受益権を取得した人にかかる場合があります。この記事は一般的な情報で、個別の判断は司法書士・税理士・弁護士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
まず信託契約書の「委託者が亡くなったとき」を読む
信託法163条は、信託が終わる場合を並べています。目的の達成、受託者が受益権の全部を持つ状態が1年続いたとき、などです。その9号に「信託行為において定めた事由が生じたとき」があります。委託者の死亡で終わらせたいときは、契約にその旨を書いておく形になります。

契約の書き方によって、委託者の死亡後は次のように分かれます。
表は左右に動かして読めます。
| 契約の定め | 委託者の死亡後 | 根拠 |
|---|---|---|
| 受益者(多くは委託者本人)の死亡を終了事由とし、帰属権利者を指定 | 信託が終わり、清算を経て残った財産が帰属権利者へ渡る | 信託法163条9号・182条 |
| 次の受益者を指定 | 信託は続き、指定された人が受益権を取得する | 信託法88条1項 |
| 委託者の死亡時に受益者となる人を指定(遺言代用信託) | 死亡の時から受益権を取得する。受益者を変える権利は委託者が持つ | 信託法90条 |
| 定めがない | 受益権や委託者の地位の行き先が不明確になる | 民法896条など |
日本司法書士会連合会のガイドラインは、信託行為に別段の定めがなければ、受益権は受益者の法定相続人に相続されると説明しています。一方で、受益権を取得する人を契約で指定してある場合は、その人が取得するため、遺産分割や遺言の対象にならないとしています。
遺言代用信託の詳しい仕組みは、遺言との組み合わせの記事で説明しています。
委託者の地位はだれが引き継ぐのか
委託者には、信託の変更や終了に関わる権利があります。その地位が亡くなったあとどうなるかは、信託の作り方で分かれます。

- 遺言で作った信託(信託法3条2号): 委託者の相続人は、委託者の地位を相続で引き継ぎません。ただし、信託行為に別段の定めがあればそれに従います(147条)。
- 契約で作った信託(同条1号): 147条は遺言による信託の規定です。日本司法書士会連合会のガイドラインは、委託者の地位にも相続性があると説明しています。
家族信託の多くは契約で作るため、後者にあたります。その場合、相続人が複数いると、委託者の権利も複数の人に分かれます。信託の変更などで意見がまとまらなくなるおそれがあります。
この点を契約で決めておく例が、名古屋国税局の文書回答に出ています。委託者兼受益者の死亡で信託が終了する契約を前提に、委託者の地位は残余財産帰属権利者が取得し、委託者の権利は相続されずに消滅するという定めです。同じ形が使えるかは事案によって異なるため、契約の作成を頼む専門家に確かめます。
地位を第三者に移す方法もあります。信託法146条は、受託者と受益者の同意を得るか、信託行為で定めた方法に従えば、委託者の地位を移せると定めています。また145条は、信託行為で委託者が権利の全部または一部を持たないと定めることも認めています。
受益者がいない場合の扱いもあります。委託者の死亡時に受益権を取得する型の信託(90条1項各号)で、受益者が現にいないときや、まだ権利を持たないときは、委託者が一定の権利を持ち、受託者が義務を負います(148条)。これも別段の定めがあればそちらが優先します。
亡くなったあと、受託者がすること
信託が続く場合、受託者は引き続き信託財産を管理します。信託した財産は受託者の名義に移っています。日本司法書士会連合会のガイドラインも、信託財産は委託者の財産ではなくなるため、遺言で承継方法を指定できないと説明しています。

受益者が変わるなど、信託の登記事項が変わったときは、受託者が遅滞なく信託の変更の登記を申請します(不動産登記法103条)。登記事項には、委託者・受託者・受益者の氏名や住所が含まれます(同法97条1項)。
信託が終わる場合は、清算に入ります。清算を行う受託者は、現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の給付を行います(信託法177条)。残った財産の行き先は182条の順で決まります。契約に帰属先の定めがないとき、または指定された人が全員権利を放棄したときは、委託者かその相続人などが帰属権利者に指定されたものとみなされます。
不動産がある場合は、受託者から帰属先への所有権移転登記も必要になります。登録免許税の扱いについては、名古屋国税局の文書回答に例があります。委託者兼受益者の死亡で信託が終了し、委託者の相続人である子が受託者として財産を取得する事案で、登録免許税法7条2項を適用して差し支えないと回答しています。回答は、事実関係が異なれば異なる課税関係になり、申告内容を拘束するものではないとも断っています。費用の全体像は費用の内訳の記事にまとめています。
受託者がすること全般は受託者の義務の記事で説明しています。
相続税はどう扱われるか
家族信託の課税は、委託者であるかどうかではなく、信託の財産的な権利をだれが持つかで決まります。国税庁の資料は、権利を持つ人を「受益者等」と呼び、受益者として権利を現に有する者と特定委託者を指すと説明しています。委託者の死亡の時から受益者になる型の人は、死亡するまでは受益者等に含まれません。

相続税法9条の2は、信託の効力が生じた場合や、受益者等の死亡で新しく受益者等が現れた場合に、適正な対価を払わずに権利を得た人は、贈与または遺贈で取得したものとみなすと定めています。委託者の死亡で信託の効力が生じた場合や、受益者等だった人の死亡で別の人が受益者等になった場合は、遺贈にあたります。信託の終了時に残余財産を受ける人も、条文に規定があります(同条4項)。
受益権の評価は、財産評価基本通達202が定めます。元本と収益の受益者が同じ人の場合は、課税時期における信託財産の価額で評価します。元本と収益の受益者が分かれる場合は、別の計算方法があります。申告では、国税庁の「信託受益権の評価明細書」を相続税または贈与税の申告書に添付します。
相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。提出先は、亡くなった人の住所地の税務署です。課税遺産の合計が基礎控除額を超えるときに、申告と納税が必要になります。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、法定相続人が2人なら4,200万円です。信託した財産は受益権として評価され、課税価格の計算に含まれる場合があります。
贈与税がかからない形や、毎年の届出については、税金と届出の記事で説明しています。
だれに相談するか

手続きによって、相談先が分かれます。
- 登記の変更や終了登記: 司法書士。登記の代理は司法書士法3条の業務です。
- 相続税の申告: 税理士。税理士でない人は、税理士の業務を行えません(税理士法52条)。弁護士は、法律上当然に税理士の事務も行えます(弁護士法3条2項)。
- 相続人どうしの争いや、契約の解釈をめぐる対立: 弁護士。報酬を得て法律事件を扱えるのは、弁護士と弁護士法人に限られます(弁護士法72条)。
亡くなったあとに慌てないための準備は、契約を作る段階でできます。委託者の死亡後に何が起こるかを、契約書の中で一つずつ決めておく形です。専門家に頼む際の質問は、専門家の選び方の記事にまとめました。信託の始めから登記までの流れは手続きの記事で説明しています。
出典
- 信託法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 民法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 相続税法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 司法書士法・弁護士法・税理士法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197 / https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205 / https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237
- 日本司法書士会連合会「民事信託支援業務の執務ガイドライン」(令和6年11月) https://www.shiho-shoshi.or.jp/c4b8ab40b728505734ac88e3806935efd5a21761.pdf
- 国税庁 名古屋国税局 文書回答事例(信託の終了に伴う所有権移転登記と登録免許税法7条2項) https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/bunshokaito/sonota/181200/01.htm
- 国税庁 相続税法基本通達の趣旨説明(信託に関する権利を有する者) https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/070704/04.htm
- 国税庁 財産評価基本通達202(信託受益権の評価) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/08.htm
- 国税庁 信託受益権の評価明細書 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hyoka/annai/1470-14.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4205 相続税の申告と納税 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4152 相続税の計算 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
いずれも2026年11月4日に確認しました。