家族信託の手引き

家族信託を使わない方法 日常生活自立支援事業・銀行の代理人・見守り契約

内容の確認日: 2026年11月3日

親の財産管理を支える方法は、家族信託だけではありません。通帳や支払いの管理が不安な段階なら、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業があります。特定の銀行の手続きを任せたいなら、銀行に代理人を届け出る方法もあります。

判断能力が下がったときに備えるなら、任意後見契約があります。方法ごとに、できることとできないことが違います。この記事は一般的な情報で、個別の判断は市区町村や社会福祉協議会、司法書士・弁護士などの専門家にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。

社会福祉協議会の日常生活自立支援事業

日常生活自立支援事業は、判断能力が十分でない人が、地域で暮らし続けられるように支える事業です。厚生労働省のページによると、実施するのは都道府県と指定都市の社会福祉協議会で、窓口の業務は市町村の社会福祉協議会などが行います。

社会福祉協議会の建物
写真: Suikotei / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

対象は、認知症の高齢者、知的障害者、精神障害者などで、福祉サービスの利用に必要な情報の入手、理解、判断、意思表示を本人だけでは適切に行うことが難しい人です。加えて、この事業の契約の内容を判断できる能力があると認められる必要があります。全国社会福祉協議会の案内は、認知症の診断や手帳を持つ人に限られないと説明しています。

援助の内容は、厚生労働省のページでは次のとおりです。

  • 福祉サービスの利用援助、苦情解決制度の利用援助、住宅改造、居住家屋の貸借、日常生活上の消費契約、住民票の届出などの行政手続に関する援助。
  • 日常的金銭管理。預金の払い戻し、解約、預け入れなど。
  • 定期的な訪問による、生活の変化の察知。

全国社会福祉協議会の案内には、年金証書、預貯金通帳、保険証書、不動産の権利証、実印、銀行印などの預かりも載っています。宝石、書画、骨董品、貴金属は預かれないとされています。この案内は障害者自立支援法の名前が出てくる古い資料です。案内自身も、サービスの内容や進め方は実施主体によって異なる場合があると書いています。実際の内容は、地元の社会福祉協議会で確かめます。

利用料は、実施主体が定める額を利用者が負担します。厚生労働省のページでは、訪問1回あたりの利用料は平均1,200円と示されています。契約を結ぶ前の初期相談などの経費と、生活保護を受けている世帯の利用料は無料です。

進め方は、申請・相談、判断能力の判定、支援計画の作成、契約の締結の順です。本人以外の家族や、地域包括支援センター、民生委員などからの問い合わせにも対応すると、全国社会福祉協議会の案内に書かれています。

この事業の援助の一覧には、不動産の売却や資産の運用は入っていません。そうした判断を任せたい場合は、ほかの方法を考えます。

銀行に代理人を届け出る

預金は本人の財産です。全国銀行協会の考え方では、預金を払い出すには預金者本人の意思確認が必要で、家族であっても払い出せないとされています。

信用金庫の本店
写真: Daderot / CC0(Wikimedia Commons)

同じ文書は、本人から親族への有効な代理権の付与があり、銀行が任意代理人の届出を受けている場合は、その代理人と取引できるとしています。本人の判断能力に問題がない状況であれば、本人との取引が可能なケースもあります。届出の様式や条件は、銀行ごとに決められています。

本人の判断能力が下がったあとは、扱いが変わります。銀行では、補助人・保佐人の同意を確認したうえで本人と取引するか、成年後見人や任意後見人を通じて代理取引をするのが一般的です。成年後見制度を使っていない親族が代わりに払い出すのは、「極めて限定的な対応」とされ、本人の医療費の支払いのように、本人の利益に適合することが明らかな場合に限られます。

代理人の届出が決める範囲は、その銀行との取引です。不動産の管理や契約全般の代理までは含みません。早い段階で、取引している銀行ごとに窓口で手続きを確認します。

見守り契約と任意後見契約

任意後見契約は、本人に判断能力があるうちに、将来の任意後見人と公正証書で契約を結んでおく制度です。厚生労働省の成年後見制度のページによると、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて、契約の効力が生じます。

家庭裁判所の建物
写真: KishujiRapid / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者です。本人以外が申し立てる場合は、原則として本人の同意が必要です。

見守り契約という言葉は、日本司法書士会連合会などの提言に出てきます。提言には、司法書士が任意後見の相談を受けたときに、見守り契約と将来型の任意後見契約を一緒に検討するとあります。ほかに、財産管理等委任契約や死後事務委任契約を併用する例も挙げられています。見守り契約の内容(連絡の頻度や訪問の有無)は、確かめた資料には定めが見つかりませんでした。契約書で何をするかを確かめます。

同じ提言は、任意後見と「福祉型の民事信託」の併用にも触れています。身上保護と財産の管理・運用を一体で行うためです。信託では身上保護はできないため、本人の生活や介護の判断が必要な場合は、後見制度との併用を考えます。後見制度と信託の違いは成年後見・任意後見・遺言との違いの記事で説明しています。

目的別に選ぶ

ここまでの方法を、目的で並べると次のようになります。

福山市鞆の浦の古い家並み
写真: Josep M. Gracia / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

表は左右に動かして読めます。

困りごと考えられる方法できる範囲の限り
通帳の管理、公共料金の支払い、福祉サービスの手続きが不安日常生活自立支援事業契約の内容を本人が判断できることが必要。不動産の売却などは含まれない
特定の銀行の手続きを子に任せたい銀行への任意代理人の届出その銀行との取引のみ。判断能力が下がった後は扱いが変わる
判断能力が下がったあとの財産管理と契約を任せたい任意後見契約(必要に応じて見守り契約)家庭裁判所が監督人を選ぶまで効力が生じない
実家の管理や売却を、子に任せたい家族信託契約書の作成、登記、費用が必要。身上保護はできない

これらは一つだけを選ぶものではなく、組み合わせることもできます。たとえば、日々の支払いは社会福祉協議会の事業で支え、自宅の売却は家族信託で受託者に任せる、という分け方です。信託した自宅を売る場合の流れは信託中の自宅を売るときの記事で説明しています。

家族信託の仕組みと費用は、家族信託とはの記事と費用の内訳の記事で説明しています。

相談できる窓口

最初の相談先は、問題によって分かれます。

市役所の庁舎
写真: Araisyohei / CC BY 4.0(Wikimedia Commons)
  • 日常生活自立支援事業: お住まいの市町村の社会福祉協議会。
  • 高齢者の暮らし全般: 地域包括支援センターや市区町村の窓口。
  • 任意後見契約: 公証役場と、契約書づくりを頼む司法書士・弁護士。
  • 家族信託: 司法書士・弁護士・税理士など。選び方は専門家の選び方の記事にまとめました。

家族信託を使わない場合も、判断能力があるうちに手続きを済ませることが前提になります。本人の意思を確かめられなくなってからでは、選べる方法が限られます。

出典

いずれも2026年11月4日に確認しました。

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