家族信託と信託銀行の商品のちがい 民事信託と商事信託・信託業法・信託協会
家族信託と信託銀行の商品は、どちらも信託法にもとづく信託ですが、受託者と仕組みが違います。家族信託では、受託者は多くの場合、委託者の家族や親族です。信託銀行などの商品では、受託者は信託業を営む金融機関で、内容はあらかじめ商品として決まっています。
信託協会が紹介する遺言代用信託は、金銭を預けて、亡くなったあとの受取人と受け取り方を決める商品です。自宅や賃貸物件の管理を家族に任せたい場合は、家族信託の領域になります。この記事は一般的な情報で、個別の判断は司法書士・弁護士・税理士などの専門家と、各金融機関にお願いします。内容は2026年11月4日に確認しました。
民事信託と商事信託の分かれ目
信託業法2条1項は、信託業を「信託の引受けを行う営業」と定めています。信託業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ営めません(同法3条)。銀行などの金融機関は、金融機関の信託業務の兼営等に関する法律1条により、内閣総理大臣の認可を受けて信託業を営めます。

家族信託は、法令上の定義のない呼び名です。日本司法書士会連合会のガイドラインは、民事信託を「信託業法の適用を受けない信託」と定義しています。同じガイドラインは、民事信託の受託者は専門職ではなく、委託者の親族などが担うことが多いとしています。
報酬の扱いにも違いがあります。信託法54条は、商法512条の適用がある場合のほか、信託行為に信託報酬を受ける定めがある場合に限り、受託者は信託財産から報酬を受けられると定めています。家族が受託者のときは、契約に定めがなければ報酬は受けられません。
名前の使い分けは次のとおりです。
- 民事信託(家族信託): 営業としてではなく、家族などが受託者になる信託。
- 信託銀行などの信託商品: 信託業の免許または兼営法の認可を受けた金融機関が、営業として引き受ける信託。
家族信託の基本は家族信託とはの記事で説明しています。
信託銀行などの代表的な商品
信託協会は、個人向けの信託商品として、遺言信託、遺言代用信託、金銭信託、不動産の信託などを紹介しています。財産の承継に関わる主なものは次の2つです。

遺言信託
信託協会の説明では、遺言書の作成の相談から、遺言書の保管、遺言の執行までを一貫して支援するサービスです。信託銀行等は遺言執行者になります。保管できるのは原則として公正証書遺言だけで、自筆証書遺言などは原則として預かれません。遺言執行では、遺言内容の披露、遺産調査と財産目録の作成、相続税などの申告・納付のサポート、不動産の名義変更による引き渡しなどを行います。
この「遺言信託」は、信託法3条2号の「遺言による信託」とは別のものです。名前が似ているため、混同しやすい点です。信託銀行の遺言信託は、遺言を書いて、その執行を任せるサービスです。手数料は金融機関ごとに異なり、保管や執行の際にもかかることが多いとされています。
遺言代用信託
本人が委託者兼第一受益者になり、信託銀行等に金銭を預けます。生きている間は本人が受益者です。亡くなったあとは、配偶者や子などの第二受益者に財産が引き継がれます。信託協会は「文字通り、遺言の代わりになる信託」と説明しています。
- 元本保証タイプを扱う金融機関が多く、預金保険の対象となるため、1,000万円までの元本と利息が保証されるとされています。
- 多くの金融機関では、受益者を相続人や近い親族に限っています。
- 遺留分を侵害するような設定は、実質的にできないとされています。
- 通常の相続と比べて、相続税額は変わりません。
- 管理手数料を無料にするなど、低コストの金融機関が多い一方、手数料は金融機関ごとに異なります。
法律上の遺言代用信託(信託法90条)の仕組みは、遺言との組み合わせの記事でも触れています。
家族信託と信託銀行の商品を比べる
ここまでの内容を、表にまとめます。

表は左右に動かして読めます。
| 比べる点 | 家族信託(民事信託) | 信託銀行などの商品 |
|---|---|---|
| 受託者 | 家族・親族などが多い | 信託業の免許または兼営法の認可を受けた金融機関 |
| 適用される法律 | 信託法。信託業法は適用されない | 信託法のほか、信託業法・兼営法 |
| 内容 | 契約で柔軟に設計する | 商品として内容が決まっている |
| 預ける財産 | 契約に書いた財産(不動産・預貯金など) | 遺言代用信託は金銭。遺言信託は遺言の執行 |
| 費用 | 契約書づくり、登記、専門家報酬など | 金融機関ごとに異なる |
| 受益者の範囲 | 契約で決める | 相続人や近い親族に限る金融機関が多い |
家族信託は契約書づくりから登記、受託者の事務まで、家族が関わる部分が大きい仕組みです。受託者の義務は受託者の義務の記事、費用の内訳は費用の内訳の記事で説明しています。受託者になる家族は、信託事務を善良な管理者の注意をもって行う義務を負います(信託法29条2項)。
目的で選ぶ
どちらが向くかは、財産の種類と、家族に任せたいことで変わります。
- 預けた金銭を、亡くなったあとに決めた形で家族に渡したい: 遺言代用信託。
- 遺言を書き、その内容の実現を金融機関に任せたい: 遺言信託(遺言執行を含むサービス)。
- 認知症などで本人が動かせなくなる前に、自宅や賃貸物件の管理・売却を家族に任せたい: 家族信託。
- 金銭の管理は金融機関に、自宅の管理は家族に、と分けたい: 財産ごとに、両方を使う。
信託した自宅を売る場合の流れは、信託中の自宅を売るときの記事で説明しています。

金融機関の商品は、申込みの条件や手数料、扱う財産が金融機関ごとに違います。この記事で挙げた内容は、信託協会が紹介する一般的な説明です。具体的な条件は、検討する金融機関の説明を取り寄せて比べます。家族信託を専門家と進める場合の相談先は、専門家の選び方の記事にまとめています。
他の方法との組み合わせ

家族信託でも、金融機関との関わりは避けられません。受託者が信託財産の預金を管理するには、信託口口座などの開設が望ましいとされています。日本司法書士会連合会のガイドラインによると、対応していない金融機関もあり、対応する金融機関は公正証書による契約書を求めることが多く、契約書の案文を事前に審査する場合もあります。契約を決める前に、使いたい金融機関の対応を確かめます。
信託銀行の商品も家族信託も、財産管理や承継の一つの手段です。身上保護が必要な場合は、成年後見制度との併用も検討します。後見制度との違いは成年後見・任意後見・遺言との違いの記事で説明しています。
家族信託のほうが柔軟に作れる一方で、遺留分や、信託できない財産の問題は残ります。向かない場面は家族信託でできないこと・向かない場合の記事で確認できます。
出典
- 信託業法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000154
- 金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/318AC0000000043
- 信託法(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000108
- 信託協会 遺言信託 https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/individual/assetsuccession/testament_inheritance.html
- 信託協会 遺言代用信託 https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/individual/assetsuccession/testament_substitution.html
- 信託協会 信託の種類 https://www.shintaku-kyokai.or.jp/trust/type/
- 日本司法書士会連合会「民事信託支援業務の執務ガイドライン」(令和6年11月) https://www.shiho-shoshi.or.jp/c4b8ab40b728505734ac88e3806935efd5a21761.pdf
いずれも2026年11月4日に確認しました。